丹頂に恋して

1996年に設立された「阿寒国際ツルセンター グルス」は、国内唯一のタンチョウのための施設です。タンチョウへの人工給餌発祥の地であり、これまでタンチョウの保護や調査などを進め、タンチョウの生態や行動などを広く発信している場所でもあるのです。今回は、同センターの主任解説員・河瀬幸(みゆき)さんにタンチョウへの想いをうかがいました。



近すぎて感じられなかった「湿原の神」

河瀬さんは、阿寒町の出身。「タンチョウの存在が身近で当たり前すぎて、タンチョウについて何も知らなかったですね」と振り返ります。河瀬さんも通っていた阿寒中学校には昔「ツルクラブ」があり、冬の間に栄養となる魚(ツルクラブで養殖したドジョウ)を与えていたこともあり、タンチョウは冬になると河瀬さんの近くに存在する鳥でした。そんな河瀬さんが、タンチョウにのめり込むようになったのは、9年前。同センターに配属されてからだと言います。「見ているうちに、どんどん面白くなってきましたね。身長は150㎝位もある大きな鳥なのですが、優雅さを感じる反面、攻撃性もあり、仲間や家族の絆の強さなど、たくさんの驚きや感動でここまで仕事を続けてこられたと想います」。


タンチョウの生態・行動を発信

「江戸時代には本州にも多く生息していたと言われていますが、狩猟の標的になり一時は絶滅したものと考えられていました。それが大正時代にこの釧路湿原で再発見され、保護活動が始まりました」タンチョウの歴史を語る河瀬さん。国の特別天然記念物となっていてその生態は現在も調査が進められています。「足にリングをつけているんです。写真を撮る人には嫌がられてしまうのですが、そこに刻まれているナンバーを見てセンターに問い合わせてくれれば、その個体の生年月日や性別がわかります。一般の方、写真を撮る方でも、そういう形で調査・保護活動に参加協力していただくこともできるんdねす」と河瀬さん。センターに訪れる人にも希望があれば無料でガイドをしたり、タンチョウについて話す機会があれば出向いてレクチャーしたりと積極的に動いています。


阿寒だから見られるタンチョウの素顔

人工給餌が行われている観察センターでは、毎年11月から3月、凍結などで餌を採れないタンチョウのサポートのために給餌が行われます。「早朝と午後なのですが、寒さが厳しくなる1月〜2月は、タンチョウも朝寝坊になります(笑)。朝ご飯は七時頃。朝はトウモロコシを、午後は生きたウグイを与えます」実は、午後の時間は、全国からカメラマンが訪れるのだとか。「ウグイを狙って、オジロワシやオオワシもやって来ます。そこでバトルは繰り広げられるんです。あのタンチョウが威嚇し、助走をつけてワシに跳び蹴り。ワシとタンチョウのバトルなんて世界中探しても見られないでしょう(笑)」そんなやんちゃで攻撃的なタンチョウもまた美しいという河瀬さん。「ツルは世界に15種類ほどいますが、やはりタンチョウは美しいですね。白、赤、黒…日本人が心をくすぐられる色合いですよね」


タンチョウと人の未来へ

河瀬さんがタンチョウから学んだこと、それは「生きる強さ、命を繋ぐ優しさ」でもあると言います。「基本は家族で行動し、若いタンチョウたちは集まって眠ったりもします。寿命は飼育されると40年程と言われていますが、野生はその半分20年ほどでしょうか。命をつなぐために懸命に生きる姿に元気づけられています」河瀬さんたちスタッフの皆さんがタンチョウの生態や調査の内容を発信することで、タンチョウと人が結びつき保護に繫がっていくのではと期待しています。一方で人里近く、農村部などで多く見られるようになり、害鳥となってしまう危険性もはらんでいると言います。タンチョウが生息できる自然を守ることも、私達が共に考えなくてはならないことかもしれません。「グルスに来て、タンチョウを見てもらい、自然環境や動物の保護を考えてもらえるきっかけとなれば、私達の活動も役に立つのかな…そんな思いで続けていきます」大空に羽ばたくタンチョウに、そして河瀬さんに会いに行きたくなります。


 

「世界でここだけ」と言う、オジロワシやオオワシ
VSタンチョウの食べ物を争う闘い。

 

【タンチョウに会える場所】 鶴見台

11月〜3月、朝8時30分と午後2時30分頃に給餌が行われます。

道道23号線沿いにあり、駐車場もあります。

住/鶴居村下雪裡  
問/鶴居村役場 TEL 0154-64-21140154-64-2114

 

 

 

音羽橋(雪裡川)
冬の早朝、川の中で群で休むタンチョウの姿を見ることができます。刻々と変化する朝焼け、朝もやとタンチョウの幻想的な写真の撮影スポット。

住/鶴居村下雪裡 第三地区近辺

 

鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ
タンチョウの飛来ポイントとして知られています。冬期間3月まで給餌も行われています。

タンチョウの保護、生息地の保全活動の拠点です。
住/鶴居村中雪裡南  TEL 0154-64-26200154-64-2620
開館/9:00〜16:00(10月〜3月の開館)
休館/火・水曜(祝日は除く)、年末 ※屋外ではいつでも見られます

 

 

河瀬幸さん
阿寒町出身。阿寒国際ツルセンター「グルス」の主任解説員を務める傍ら、タンチョウや周辺の自然を発信する「タンチョウ&ミキィ」のブログも人気。

日々新しい情報でタンチョウの魅力を伝えている。

さまざまなメディアで、また訪れる人へ、河瀬さんの言葉でタンチョウの魅力を伝えている。

 

 

 

 

阿寒国際ツルセンター「グルス」

釧路市阿寒町上阿寒23線40番地  TEL 0154-66-40110154-66-4011
入館料/大人(高校生以上)470円、小人(小・中学生)240円

開館時間/9:00〜17:00、休館日/無休

 

タンチョウ観察センター(11月〜3月末まで開館)
開館時間/8:30〜16:30(1月までは16:00まで)、休館日/期間中は無休