オホーツク暮らしびと その9サロマ湖でたった1軒、2代目海苔職人が言う。「同じものができないからおもしろい」

谷川 哲也さん

谷川水産 代表

谷川 哲也さん

谷川水産は、生産量の限られる海苔作りだけでは事業が成り立たないためホタテ養殖も行っていますが、安定性のあるホタテ養殖だけに移行しないのは、やはり「日本最北・海苔職人」の誇りがあるから。自社事業のほか、消防団員を30年、教育委員を12年続けるなど地域の公職にも就いてきた。「佐呂間の人々は人柄が良くてね…。皆、親切ですよ」と、初めてこの地に来た時と印象は変わらない。

木のおもちゃワールド館 ちっちゃワールド

カネテツ 谷川水産

佐呂間町字浜佐呂間269-8
TEL:01587-6-2309
(小売り時間は9時~18時頃まで)

日本で1番の新海苔はサロマ湖から。「サロマ湖のり(板海苔10枚入り)」と「素干しのり(30グラム)」は、谷川水産でも小売り・地方発送をしています。
また、「サロマ湖 鶴雅リゾート」のショップでも販売中です。ほか、全国の自然食品販売店でも好評です。

サロマ湖の恵みといえば、ホタテや牡蠣が一般的ですが…。ほかにも、あまり知られていないサロマ湖産の特産物があります。それは「海苔」。
サロマ湖は日本最北にある海苔養殖海域なのです。汽水湖であるサロマ湖で、丹誠込めた海苔養殖を行っているのは、佐呂間町の谷川水産の代表、谷川哲也さん。手間ひまの掛かる方法で、品質と安全性の高い、希少な海苔を生産しています。

 それは1960年代のはじめ。谷川さんの父親・哲康さんがサロマ湖で海苔養殖の技術指導を行うことになり、谷川一家は岡山県からこの北海道の佐呂間町へやって来ました。当時中学1年生だった谷川さんは、「冬の寒さに驚いたねぇ。反面、人は皆親切で温かかった」と当時を振り返ります。
こうして地元漁業者らと始まったサロマ湖での海苔養殖事業。サロマ湖の低水温に合う海苔の種を探し出し、天候や海水の状態と常に戦いながら、なんとかサロマ湖ならではのおいしい海苔になってきたものの…。北国サロマ湖は秋ともなれば急激に水温が下がるため、海苔養殖が可能な時期は年間ごくわずか。これでは生産量が上がらず、事業としては苦しい…。そのため、海苔栽培を行う人は次第に減ってゆき、15年後に残ったのは谷川さんの父、哲康さんだけでした。たった1人でも、丹誠込めて胞子作りから加工まで一貫作業を行う父親。その姿を見ながら成長した谷川さんは、当たり前のように自らも海苔生産に携わる生き方を選びました。

 谷川水産が作る「サロマ湖のり」は磯の風味が濃厚で味に深みがあります。この美味は、昼夜の水温差が大きいサロマ湖の恵みでもありますが、大きな秘密は、日本ではたぶん唯一であろう「酸処理」をまったくしない養殖方法にあるようです。一般的な海苔養殖では、海苔の成長を妨げる珪藻を取り除いたり、海苔の色つやを良くするために海面でクエン酸、塩酸、リン酸などを用いて処理しています。でも、この酸処理は海苔の味を落とし、海の生態系に影響を及ぼしかねない。だから父親の哲康さんの代から、かたくなに酸処理を拒否。網に付いた珪藻をブラシで落とす手作業は大変ですが、「サロマ湖のり」のおいしさと安全性のために、父子2代40年以上に渡り守り抜いてきました。

「サロマ湖のり」は9月下旬ころから収穫できます。湖が結氷するまで収穫の忙しさは続き、その後は海苔加工の作業。

水槽の果胞子は殻胞子に成長し、今度は海苔網に付着させた後、サロマ湖へ。海苔網には珪藻が付着しますが、酸処理をせずブラシで珪藻を取り除きます。

 年間生産できる板海苔は10万枚。つまり1万袋です。この希少な「幻の品」に惚れ込むファンは全国に点在しています。天候や水温に左右される大変な事業ですが、意外にも谷川さんはそれを楽しんでいます。「海苔作りは奥が深いです。だから面白いんです。理想の色や味を目指して探求できる日々は面白いです」。谷川さんが真面目に、楽しみながら作る「サロマ湖のり」だから、食べた人もやっぱり笑顔になるのです。